今回は珍しく真面目に数学のことを書きます.
Perronの公式は良く用いることになりそうなので,その理由・特徴付けもしつつ書いたつもりです.
(応用,モチベーションについては最後にまとめています.
興味本位で訪問して頂いた方はそちらを先に読んで頂いたほうがいいかもしれません.)
まだまだ勉強不足なところもありますので,間違いなどがあればご指摘ください.
また,目標はPerronの公式の周辺の話にあるので,Mellin変換とRiemann-Stieltjes積分などについてのある程度の知識は前提としておきます.
それでは最初に,Perronの公式(Perron formula)を書きその特徴を探っておきます.
(より一般的なものを扱うために,少し定義をします.)
数論的関数よりも少し広いものを扱うために,以下の集合を定義する.
Def.(集合\( V \)) \( \mathbb{R} \)上の複素数値関数で,以下の3つを満たす関数の集合とする.
(1) \( (-\infty,1) \) において\( 0 \). (2) 右方連続. (3) (局所)有界変動関数.
これ自体は,Riemann-Stieltjes積分をより良く扱えるためのものであって,
今後考える数論的関数\( f \)のSummatory functionを\(F\)とすると,この関数\(F\)は\(V\)の元であることが分かる.
Remark.Summatory function \(F(x) := \displaystyle\sum_{n \leq x} f(n) \)である.
Def.(Mellin変換\( \widehat{F} \)) \( F \in V \)で,Riemann-Stieltjes積分
\[
\lim_{X \to \infty} \int_{1-}^X x^{-s} dF(x)
\] が収束し,存在しているときにそれを\(F\)のMellin変換\( \widehat{F}\)という.
このとき,冪級数とほぼ同じことが考えられて(全く同じではない),収束軸というものが考えられる.
(冪級数では,収束半径内では収束していることが分かるが,これと同じく
収束軸よりも右側では収束しているということが分かっている.)
Def.(収束軸\( \sigma_c ,\sigma_a \)) \( \widehat{F} \)の収束軸\(\sigma_c = \sigma_c( \widehat{F} \))は
\[
\sigma_c = \inf \{ \sigma:\widehat{F}(s) が Re(s)=\sigma において収束するs \}
\] で定義される.
同じようにして,絶対収束軸\(\sigma_a(\widehat{F}\))も
\[
\sigma_a = \inf \{ \sigma:\int x^{-\sigma} dF_v (x) < \infty \}
\] で定義される.
Remark.明らかに,\( \sigma_a \geq \sigma_c \)であるが,さらにDirichlet級数に対しては\( \sigma_a \leq \sigma_c +1 \)であることが分かる.
これで,
Perronの公式を(より一般の場合に対しての)定義できます.
Theorem.(Perron inversion formula) \( F \in V \)とし,\( \widehat{F} \)は絶対収束しているとする.
また,\( b \)を (都合よくするため) \( b > \max (\sigma_c ,0) \)としてとる. このとき,\( {}^{\forall}x>0 \)に対して
\[
\lim_{T \to \infty} \frac{1}{2\pi i} \int_{b-iT}^{b+iT} \widehat{F}(s) x^s \frac{ds}{s} = \frac{1}{2} \{ F(x+) + F(x-) \} \tag{1} \label{perron}
\] が成り立つ.
Remark.\(b \)を都合よくするため0を避けたのは,分母に\(s\)があるからである.
ここではPerronの公式についての証明しない.
これよりも積分の可能性を改良することが出来る,好ましく用いることが出来るものを紹介する.
Theorem.("smoothed" Perron formula) \(F \in V , \sigma_a(\widehat{F}) < \infty ,b > \max( \sigma_c ,0) \)とする.
このとき,\( {}^{\forall} x>0 \)に対して,
\[
\frac{1}{2\pi i}\int_{b-i\infty}^{b+\infty} x^s \widehat{F}(s) \frac{ds}{s^2} = \int_{1-}^x dF * \frac{dt}{t} = \int_1^x \frac{F(t)}{t} dt \tag{2} \label{smoothed perron}
\] が成り立つ. [
証明]
Remark. (\ref{perron})との類似を見ておきます.
(\ref{perron})における\( \widehat{F}(s) = (dF)^{\hat{}} \) の代わりに, (\ref{smoothed perron})では\( \frac{\widehat{F}(s)}{s}=(dF*\frac{dt}{t})^{\hat{}} \)があると考えることができる.
つまり,Perron formulaにおいて分母の因数に\(s\)を加えているように見ることが出来る.
この分母に\(s\)の因数を加えていくことで,積分の可能性を改良することができる.
もちろん,帰納的に\( dF*(\frac{dt}{t})^{*n} \)を\(dF*(\frac{dt}{t})^{*(n-1)} \)の代わりに適用していくことができる.
また,(\ref{perron})においては極限を対称に取る必要があったが,(\ref{smoothed perron})においては非対称に取ることができることが見れる.
ちなみに,"smoothed"というのは一般的な定理の名前としてあるわけではなく文献にある本内で作者(Bateman氏,Diamond氏)がセクションのタイトルとしてつけていたので,ここでは定理の頭につけただけである.
この"smoothed"のイメージ(由来?)は,分母に因数\(s\)を加えていくことからだと思われる.
それでは少し話を戻して,\( G(x) \)を以下のように定める,
\[
x<1 に対しては,G(x):=0 \\
x\geq1 に対しては,G(x):=\int_{1-}^x dF*\frac{dt}{t}
\] とすると,この関数\(G(x) \)は\(V\)の元となる.
またこの定義された\(G(x)\)の被積分関数から,これは\(F\)に対してのある種の平均を考えていることが分かる.
つまり,この\(G(x)\)の評価から\(F\)の評価を(ある程度の)推測することが可能であるということである.
(
我々の目標は,
\(F\)のより良い評価を得ること(詳しくは後述)である!!)
そのようなことが出来ることを次で見てみる.
e.g. \(F\) を実数値関数で,単調増加な\(V\)の元の関数とする.
さらに,\(G(x)\)の評価が
\[
G(x)=\int_1^x dF*\frac{dt}{t} = x^{\alpha} P(\log x) + O\{E(x)\}
\] で与えられていたとする.
ただし,\(\alpha \)は正の実数とし,\( P\)は恒等的に\(0\)でないような実数係数多項式とし,
\(E\)は増加関数であり,さらに次の2つの条件,
(A) すべての\( x \geq 1\)に対して,\(E(2x) \leq kE(x) \)を満たすような \( k \geq 1\)が存在
(B) \( E(x) = o\{ x^{\alpha} P(\log x)\} \)
を満たすとする.
このとき,\[
F(x) = x^{\alpha} Q(\log x) + O \{ \sqrt{x^{\alpha} P(\log x) E(x) } \}
\] が成り立ちます.ただし,\(Q(u)=\alpha P(u) + P'(u) \) [
証明]
以上が今回の『Perronの公式とその周り』の主な部分である.
次に,その応用とモチベーションを少し話しておいて,次の記事『Dirichletの約数問題と平均値定理』に繋げることにする.
応用,モチベーション
私たちは,数論的関数に対する
summatory functionの良い近似,漸近公式が得たいという目標がある.
たとえばそれは次のような未解決問題があげられる.
Dirichletの約数問題
約数関数\(d(n)\)のsummatory function\(N_2 (x) := \displaystyle\sum_{n \leq x} d(n) \)とする.このとき
\[
N_2(x)=x \log x + (2 \gamma -1)x + \Delta(x) ( \gamma:Euler's constant) \tag{3} \label{divisor problem}
\] であり,この\(\Delta(x)\)の評価をどれぐらい良く近似できるか?
という問題である.
これを探る方法はいくつかあるが,そのうちの一つにMellin変換,Perronの公式からのアプローチがある.
実は,数論的関数\(f\)とそのsummatory function\(F\)に対するMellin変換は
\[
\widehat{F}(s):=\int_{1-}^{\infty} x^{-s} dF(x) = \sum_{n=1}^{\infty} \frac{f(n)}{n^s} \tag{4} \label{D.s.}
\] の関係がある.右辺はDirichlet級数と呼ばれるものであり,\( \zeta\)と関わりが強い.
(
英語wikiなどを参照すればそれはすぐに感じることができる.)
お気づきの方も多いと思うが,(\ref{D.s.})において\(f(n)\)を\(1\)としsummatory function\(N(x):=\displaystyle\sum_{n \leq x} 1\)と定めると,
\[
\sigma>1 に対して \zeta(s) := \sum \frac{1}{n^s} = \int x^{-s}dN(x)
\] となる.
またここでは詳しく書かないが,約数問題(\ref{divisor problem})については,
\[
\zeta^2(s) = \sum_{n=1}^{\infty} \frac{d(n)}{n^s}
\] であることから,
\[
\sum_{n \leq x}{}^{\prime} d(n) = \frac{1}{2\pi i} \int \zeta^2 x^s \frac{ds}{s}
\] とここにPerron の公式が用いられ,平均値定理との繋がりが
やや見られる.
(
ややと言うのは,"繋がっていそう"なのは\(\zeta^2\)の存在だけなので,実際はもう少し良く見ることが出来ることは次の記事で紹介する.)
参考文献:P.T.Bateman and H.G.Diamond,Analytic Number Theory:An Introductory Course,World Scientific Pub Co Inc,2004,376 p.